スペイン旅行記④ ガウディ建築巡礼とカタルーニャ音楽堂 -バルセロナ(2)

前回までの記事はこちら。

スペイン旅行記① 準備編

スペイン旅行記② アルハンブラ宮殿 -グラナダ

スペイン旅行記③ 飛ばない、飛行機 -バルセロナ(1)

 

バルセロナには夜に到着したので、食事をしてすぐ就寝。翌日はバルセロナの建築を巡る一日だった。この一日で訪れた建築やバルセロナの都市についてまとめておこうと思う。

 

バルセロナ・グリッドパターン

バルセロナは都市計画においても他の大都市には無い魅力があるように思う。19世紀に行われた都市計画は現在にも引き継がれているが、学生の頃に目にした、グリッドパターンで区画された空撮のインパクトが大きく、その都市のありようについては実際に確認してみたかった。


このグリッドパターンに至る経緯について簡単におさらいしておくと、バルセロナは地中海の植民地を起源とし、囲壁に囲まれた市街地から始まっている。そして都市の拡張に伴って壁を拡張しながら街区を広げているが、19世紀に入り衛生問題等の都市問題が顕在化したため、囲壁を壊して近代都市を建設することになった。その際に計画を行うこととなったのが、中央政府からの任にあたっていた土木技師セルダである(1859)。

 

セルダは計画にあたり、パリのようなドラマティックな空間を志向する計画では工場労働者であふれかえっている都市問題を解決できないと考え、まず測量による精緻な地図を作製した上で、資本家、労働者、商人など様々な人が混じりあって同じ街区に住む市街地を思い描いたという。区画を形成するグリッドは113.3m角で、20mの道路を挟んで碁盤の目のように整然と並んでいる。

 

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画像はGoogleマップより

画像右下の入り組んだエリアがゴシック地区と呼ばれる旧市街で、かつて囲壁に囲まれていたエリア。グリッドパターンのエリアとは対照的。

 

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「グリッド」の区画の内側

グリッドに分割された街区はどのようになっているのかというと、グリッドの外周に建物が立ち並び、その内側に共有の中庭(パティオ)を確保しているようだった。建物の皮で中庭のあんこを包むような構造。

ただ、実際には中庭の部分を低層の建物が占めてしまっている例が多数見られた。これに対して、1980年代以降、パティオを再生させる取り組みが行われているようだ*1

 

モデルニスモ建築

アントニ・ガウディが活躍したのはこの都市計画以降で、19世紀末から20世紀初頭にかけて建築を残している。この時代のバルセロナでは、モデルニスモという19世紀末にはじまった装飾的表現にあふれた芸術運動が起こっていて、ガウディの有機的な建築もこの様式として位置付けられる。ガウディだけではなく、モンタネールやカダファルクといった建築家もまた、モデルニスモとして位置付けられる有機的な建築物を残している。

 

サグラダ・ファミリア

アントニ・ガウディによるサグラダ・ファミリアバルセロナの中心部の「グリッド」の1区画を占めている。

サグラダ・ファミリアを訪れると外観にまず圧倒された。そのフォルムもさることながら、外部を埋め尽くす装飾からも異様な雰囲気が漂っている。

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現地で借りられるオーディオガイドがその装飾のひとつひとつを詳細に説明してくれたのだが、要するにサグラダ・ファミリアは聖書を建築化したものだということだ。宗教画に聖書の内容が描かれるのと同じように、建築を埋め尽くす装飾の一つ一つにも背景には聖書がある。

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ただ、サグラダ・ファミリアの造型の特徴は、彫刻的なデザインのみならず、自然から導かれた美学や構造的な合理性にもある*2。ガウディの逆さ吊り構造模型は有名だが、サグラダ・ファミリアは自然への眼差しや構造上の合理性の上に成立している建築であり、今日にも通じる思想を持つ建築であると感じられた。

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生誕の塔にある螺旋階段

生誕のファサードのタワーにはエレベーターで50mほど上がり、螺旋階段をぐるぐると降りた。塔からはバルセロナの街を眺めることができた。

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ジャン・ヌーヴェルによるトーレ・アグバールが見える

 

地下の礼拝堂にはガウディが眠っている。また、ガウディやサグラダ・ファミリアに関する様々な内容を展示している。3Dプリンタなどが設置された作業場の様子もガラス越しに見学することができる。

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地下の作業場

 

グエル公園 [1914]

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バルセロナの中心部からタクシーで約20分。ガウディによるサグラダ・ファミリアと並び観光客が多く訪れるグエル公園バルセロナの街を見渡せる丘に築かれている。

実業家グエル氏による分譲住宅で、広場や道路のインフラとともに1900年から1914年の間に建造されたそうだが、買い手はつかなかったそうだ。ここにもサグラダ・ファミリアで見られたようなガウディの幾何学的な構造体を目にすることができたが、合理性というだけでは説明しがたい様々な装飾も点在して賑やかな印象を受けた。

 

 

カサ・ミラ [1910]

カサ・ミラの内部は博物館のようになっており、ひとり25ユーロを払って入場。

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中央を吹抜けとした集合住宅であることが分かる。1階から屋上に上がり、そこから降りて行くのだがこの屋上がすばらしかった。

 

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ガウディ自ら、サグラダ・ファミリアへの視点場となるようなアーチを作り演出してるのが面白い

屋上から降りると、ここもガウディの仕事を紹介する博物館のようなフロア。

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カサ・ミラの模型なども展示されている

このフロアは屋上を支える屋根裏で、薄く繊細なレンガでできたアーチ状の構造が特徴的だった。バルセロナの位置するカタルーニャ地方に伝えられてきたカタルーニャ・ヴォールト(カタラン・ヴォールト)という伝統的な構法であるらしい。

 

スイーツアベニュー [2009]

 

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余談だが、今回バルセロナで泊まったのはカサ・ミラのはす向かいに位置するスイーツアベニューというリノベーションされた(というかオフィスからのコンバージョンだそうだが)アパートメント・ホテルで、ファサードの改修設計を伊東豊雄さんが行っている。カサ・ミラと呼応するように波打ったファサードが特徴的で、ホテルのエントランスで伊東さんについても紹介されていた。

 

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思い出すと伊東さんが自らの建築について語る際にガウディについて触れることがあったが、ガウディの建築群を訪れることで、伊東さんの建築についても理解が深められたように思う。ガウディの有機的な形態には自然界の形態を構築するシステム的な思想による裏付けがあり、それは現代の建築を形作る思想に通底するように思われるからだ。



カタルーニャ音楽堂 [1908]

夜には、トーマス・ヘンゲルブロックによるモーツァルト・レクイエムの演奏を聴きにカタルーニャ音楽堂を訪れた。カタルーニャ音楽堂は普通に見学することもできるのだが、このような建築は使われているさまを観てみたかったし、著名な指揮者が来るとなるとなおさらなので、日本から事前に予約していった。 

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ご覧のとおり大盛況。ステージは狭いのだが、華やかな装飾に彩られた荘厳な空間が、指揮者、演奏者、観客と一体的になったさまがすばらしかった。

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ホワイエにあるカフェEl Foyer

建築は、ガウディの師でもあるモンタネール(リュイス・ドメネク・イ・モンタネール)によるもの。ガウディだけでない、モデルニスモ建築としての表現の深さを痛感する。

 

 

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演奏を聴いた後、IRATIというバルにてピンチョスをいろいろつまみながら飲む。昨日の予定変更を取り戻すだけでなく、いろいろ学び多い一日だった。

 

スペイン旅行記⑤ ミシュラン3つ星「ABaC」でランチ -バルセロナ(3) に続く。

*1:参考

https://www.machinami.or.jp/contents/publication/pdf/machinami/machinami055_7.pdf

*2:ただし本当にどこまで構造上合理的なのかは分からない。