2022年を振り返る

2023年の仕事始め。年頭所感に代えて、具体的な仕事から2022年を振り返ってみたい。


こどものための建築
認定こども園保育所の2園が竣工。両者はともにこどものための建築でありながら、松山市郊外の広い敷地に計画した木造平屋建て、松山市の住宅が立ち並ぶ市街地の鉄骨造3階建てと、それぞれが全く異なる性格を持つ建築となった。

くたに幼稚園

ジャックと豆の木園 セカンド園舎

こどものための建築と一口に言っても、敷地などの諸条件や教育・保育方針などにより多様なかたちがありうるビルディングタイプである。
こどものための建築づくりは、2021年に竣工したダンススタジオなども含めてこの数年継続しているが、自分も子を育てるようになり、子育ての様々な支援や、子どもの居場所の確保などの必要性について実感しており、社会の変化の要請にも具体的な回答として応えていく必要がある。引き続きデザインとしても追求していきたい。


未完プロジェクト
計画は進めたものの、建設資材価格の上昇などによる建築費の高騰により見合わせたプロジェクトも生じている。建築費は今年も、さらには中長期的にも下がることはないように思われ、よりコストパフォーマンスを高めることが求められる。


島、山間部、松山市外での仕事
私たちの仕事はその多くが松山市内のものであるが、松山を離れたエリアの割合が高まりつつある。地域との行き来をする中で、その地域・場所固有の価値や魅力を見出し、アウトプットにつなげていきたいと思う。

川向正人+IUW実行委員会『IUWレポート TANGEから建築を学ぶ者への出題』

愛媛県今治市は、故・丹下健三のふるさとであり、丹下の残した建築が多数残されています。
川向正人+IUW実行委員会『IUWレポート TANGEから建築を学ぶ者への出題』は、「都市のコア、建築のコア」という理念のもとに丹下が設計した「今治市庁舎広場(周囲の丹下建築を含む)」を対象に、建築遺産を活かした真の「まちのコア」の実現のために行われた、大学・まち・専門家によるワークショップによる提言と、関連する論考が収められた一冊。
私が愛媛にUターンした直後に行った、私の活動にも若干触れられていますので、ここで紹介させていただきます。

 

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日事連 2022年10月号に寄稿しました

今治市伊東豊雄建築ミュージアム(撮影:白石卓央)

日事連 2022年10月号の連載「美術館・博物館巡り」に、愛媛県今治市の「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」について寄稿しました。
専門家向けの内容ですが、手に取られた皆様はよろしければご覧ください。

目次はこちら

https://www.njr.or.jp/pdf/magazine/202210.pdf

槇文彦の建築 ヒルサイドテラスとスパイラル(2)

表参道のスパイラル(槇文彦、1985年)を訪れ、大学院時代の先輩・友人に会った。

久しぶりに上京したので、新しい建築も見てみたいし話題性のあるお店にも行ってみたかったが、槇さんの建築を訪れようと思ったのは、そこに時代を超える普遍的な良さがあるからで、それをあらためて確認したかったからだ。

 

スパイラル

スパイラルは学生の頃から何度となく訪れたが、一番の見せ場は、建物の奥のアトリウムに設けられたスロープ状の「スパイラルホール」にある。建物の奥に現れる、明るく劇場的な空間である。

スパイラルホール

スパイラルホールからカフェや2階のショップが見える

ただ、魅力はドラマティックなスロープにあるだけではない。高さの変化を伴ってデザインされた、細やかなフロアレベルや階高は、ヒルサイドテラスにもみられるように、そこを訪れ滞在する者にそれぞれの「居場所」を与えてゆく。

スパイラルカフェ

1階のカフェは、通路状のギャラリーと1m近いレベル差があり、それによってカフェにはサンクンガーデンのような落ち着きが与えられ、賑わう。一方、隣り合うギャラリーはカフェからレベルを上げることで、劇場のステージのような、あるいは花道的な空間の質を持つ。さながら都市のステージである。

ギャラリー

2階へと上がる、大階段で構成されたエスプラナードも公共的な空間である。踊り場に置かれた椅子にはいつも誰かが座って、表参道の街を見下ろしている。これは、私が初めて訪れた頃から変わらない光景だ。この場所について槇は、ニーチェの「孤独は私の故郷である」という言葉をひきながら、都市で孤独になれる場所の重要性を説く。

2階への大階段であるエスプラナー

近年、公共空間の成否はその「にぎわい」の有無、人が集まるかどうか、に関心が向けられ、パブリックスペースには「にぎわい」が求められ過ぎているように感じる。都市に必要な要素は「にぎわい」だけではなく、公共空間が常ににぎわっている必要はない。独りのためのパブリックスペースも必要なのである。

 

前の記事はこちら。

takaoshiraishi.hatenablog.com

槇文彦の建築 ヒルサイドテラスとスパイラル(1)

初めて、子どもを連れて東京を訪れた。コロナもあり、3年ぶりである。

大半を妻の実家のある三鷹で過ごしたが、少しだけ渋谷とその周りを訪れることができた。SDレビューを行っていることもあり、槇文彦さんの建築をあらためて体感しようということで、久しぶりに代官山を訪れることにした。

 

ヒルサイドテラス

建築家の登竜門とも言われる「SDレビュー2022」の展示を見にヒルサイドテラスを訪れた。
ここで説明するまでもないが、ヒルサイドテラスは建築家・槇文彦が、同地の大地主である朝倉家(朝倉不動産)とともに30年の歳月をかけて建て続けた建築群である。この建築が時間をかけて今の代官山のイメージを形成したといってよいだろう。

手前がF棟。奥にG・H棟がある

第1期(1969年)A・B棟
第2期(1973年)C棟
第3期(1977年)D・E棟
第4期(1985年)アネックスA・B棟
第5期(1987年)ヒルサイドプラザ
第6期(1992年)F・G・H棟
第7期(1998年)ヒルサイドウエス

 

中庭に面して店舗等が並ぶC棟

建物の間に路地のような公共的な空間やパブリックスペースを適宜設け、広場や店舗、住戸を結ぶ回遊性が高く、(槇のいう)「襞」や「奥」といった内外の重層的で豊かな都市空間が実現されている。

D棟 奥のE棟とともに猿楽塚を囲む


建物のボリュームを分けるだけではなく、建物自体のエレメントを文節していることもヒューマンスケールで親しみのある表情を与えている。

建築と外部空間に適宜レベル差を与えていることも、空間に「エッジ」を設け、それが人の居場所の形成に寄与していることが見て取れた。

ただ、このレベル差は、バリアフリーが求められる今日では難しいところもあるだろう。特にB棟のペデストリアンデッキについては(槇さんも触れていた記憶があるが)、街路との繋がりを遮断してしまっており、今になって見ると失敗であるように思う。ヒルサイドテラスを悪く言う人はいないので、あえてこの点は一度指摘しておきたい。

F・G棟に囲まれた広場

代官山駅ヒルサイドテラスからやや離れた場所にあるヒルサイドウエストも、個人的に好きな建築である。シンプルで端正なファサードのデザインと、南北の道路と高低差をつなぐ道のような通り抜けの空間が特徴的。

ヒルサイドウエスト 外部パッサージュ

ヒルサイドテラスからは離れているが、ヒルサイドテラスの思想を濃密に体現しており、一つの建築を通じて都市に関与するという姿勢とそのデザインを見て取ることができる。

ヒルサイドウエスト 鉢山町の住宅地側からのアプローチ

ヒルサイドテラスで行われていたSDレビューは最終日であることもあり賑わっていた。ハードだけでなく、このようなソフトを含めてじっくりと文化を育ててきたことも、ヒルサイドテラスの功績であることに異議はないだろう。

SDレビュー2022

続きはこちら。

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瀬戸内 弓削島、生口島

今更ながら。半年前以上前にしまなみ海道を家族で旅行した際の記録を残しておきたい。
コロナ禍ではあったが、愛媛では新たな感染者が生じないなど落ち着いていた2021年11月。それでも子供も小さいので遠出はやめて、瀬戸内の島を訪れることにした。

 

しまなみ海道は時折利用するものの、なかなか訪れていなかった場所を訪問することに。弓削島、生口島向島など。

弓削島には家老渡港からフェリーを利用

上弓削の路地

Kitchen 313 Kamiyuge


弓削島では、撮影など公私にわたりお世話になっている宮畑周平さんの、Kitchen 313 Kamiyugeを訪問。お店は築100年の蔵を丁寧に改装したもので、コーヒーやジュースをいただき、上弓削の路地や海沿い、高浜八幡神社などを案内していただいた。

 

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瀬戸田の商店街

yubune

Soil

生口島では、瀬戸田のしおまち商店街にある、銭湯付き宿泊施設「yubune」に宿泊。
yubuneの向かい側のAzumi Setodaは旧堀内邸を改修したもの。ともに、アマンを世界に展開させたホテリエ エイドリアン・ゼッカが手掛けている。設計は、京都の三浦史朗氏(六角屋)。2021年3月竣工。

夕食付のプランにしたところ、食事は近くのMinatoyaでいただくことに。施設内で完結するのではなく、街を利用した感じは良かった。このレストランのある建物SOIL SETODAも宿泊を伴う(設計:稲富堀内建築事務所、2021年4月オープン)。Azumi Setodaなどを含め、このしおまち商店街は近年動いている感じがする。

商店街には、老舗もあるし、Azumi Setodaのように新たな資本も入っていたり、若い人のお店もある。国宝のある寺もあり、商店街をつきぬければ海。歴史を重ねてきた多様性が感じられて魅力的だった。これからも注目したい。

Azumi Setodaは商店街への資本の入り方としてはややスケールアウトしている感じもするが(もう少し室数などを絞った形でも良いように思う)、宿泊したらまた印象も異なったかもしれない。

ただいずれにせよ、NY Timesの"52Places to Go in 2019"において“Setouchi Islands”が7位に選ばれたように「瀬戸内」の島や海が国際的に注目を集めていることは間違いない。

 

soilis.co

yubune.co

2021年を振り返る

2021年の仕事を振り返ると、鉄骨造のビルから一室のリノベーションまで、多様な仕事に取り組んだ。グッドデザイン賞など対外的な評価をいただき、個人的には愛知産業大学での設計スタジオ(非常勤講師)や愛媛新聞のコラム「伊予弁」の執筆など、自身を振り返るよい機会もいただいた。一方で、2020年から続くコロナに翻弄された一年でもあった。具体的な仕事から、2021年を振り返ってみたい。


「ひみつジャナイ基地」がグッドデザイン賞を受賞

2021年は、2020年に完成した「ひみつジャナイ基地」(松本樹さんとの共同)がグッドデザイン賞とまつやま景観賞 審査員特別賞を受賞し、これまでの仕事に一定の評価をいただくことができた。

www.g-mark.org

dogoonsenart.com

2021年のプロジェクト

多様に利用されるオフィスとテナントによる「Azure Bliss」、ダンススタジオ・学習塾・カフェなどの複合からなる「DIG STUDIO」など、企業からのご依頼も形になった。それぞれ難易度の高いプロジェクトだったが、施工者や様々な方にご尽力いただき、無事に完成することができた。

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Azure Bliss

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DIG STUDIO

 

公共施設のマネジメント・長寿命化


30数年前に弊社で設計を行った「埋蔵文化財センター 松山市考古館」も大規模改修設計を経て、改修工事が完了した。

2019年から各種点検や調査を行い、今後50年にわたる長期的な計画(長寿命化)を策定した上で、初回となる大規模改修の設計を行った。しかし、設計を終えて工事に入るところで内容が大幅に縮小することになった。設計者としては残念だが、コロナ対策に予算がまわされた結果だろう。これもまた、建築の長期的な運用におけるひとつの側面といえるだろう。

 

www.cul-spo.or.jp

 

6畳1間から地域を考える

「COWORKING-HUB nanyo sign」や「PAAC 平和通りアートセンター」といった、地域との関わりを媒介する場のデザインも行った。

「COWORKING-HUB nanyo sign」は内子町に2021年4月にオープンしたコワーキングスペースで、移住相談窓口を備えるという特徴がある。南予移住マネージャー(山口聡子さん)がほぼ常駐しているのが面白いところで、人の繋がりを媒介する場になればと思う。

「PAAC 平和通りアートセンター」は6畳1間のリノベーションであり仕事としては最小規模だが、様々なことを考えさせられたのは「伊予弁」で申しあげたとおり(参考 伊予弁「デザインしないというデザイン」)。今もユニークな企画が行われ、オルタナティブな場に育ちつつある。

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COWORKING-HUB nanyo sign

 

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PAAC 平和通りアートセンター

 

e-iju.net

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