TAKAOSHIRAISHI DIARY

四国松山で建築設計事務所を主宰している建築士の日記です。設計事務所の経営のことや、旅先で出会った建築・街のについて記しています。

イギリス旅行記③ ロンドンの建築(1)現代に息づく再生建築

これまでの記事

イギリス旅行記① ブライトン・アンド・ホヴ

イギリス旅行記② ロンドンの都市の変遷:セント・ポール大聖堂とエステート

歴史的に多様な建築物が積層するロンドン。ロンドンの街並みを形成する建物の多くは18世紀以降のものだが、新たな建築物を建てる時にも既存の建物や都市空間を尊重し、歴史的な景観と現代的な機能性のバランスを探りながら計画しているように感じられた。

今回取り上げたのはその象徴的な事例だが、最後の王立取引所を除き、いずれも家族で訪れた。小さいこども連れでも十分に楽しめた観光スポットだが、こうした建築物こそ、新旧の融合の重要性を空間体験として伝えているように感じた。

 

目次

 


大英博物館 グレートコート [2000改修]

人類の歴史や文化を網羅的にコレクションする大英博物館グレート・コートは、既存の博物館の建物の間にガラス屋根を架け、全天候型の広場と通路の役割を与えている。

 

 

中央には円形の閲覧室があり、19世紀の建築の複雑な屋根形状に合わせてガラス屋根を架けるのは、美しく見せるのが難しいはずだ。しかし、フォトジェニックな放物線形で違和感なくおさまっている。三角形グリッドで構成されたシャープなガラス屋根のディテール処理にはあらためてノーマン・フォスターの凄さを感じた。

 

地上レベルの動線処理も含め、このグレート・コートを含めた改修により博物館は格段に使いやすくなったそうだ。改修前の様子を知らない自分にとっては、まるで初めからこのような博物館であるような印象だった。

グレート・コートのガラス屋根

世界最大級のコレクションを見るにはいくら時間があっても足りないが、その合間に一息つける開放的な空間は、展示室との明確なコントラストを生み出していて良かった。

 

大英博物館 グレート・コート

設計:ノーマン・フォスター

竣工(改修):2000年

www.britishmuseum.org

 

 

テート・モダン [2000改修]

テムズ川南岸にそびえる旧バンクサイド火力発電所を美術館へとコンバージョン(用途転用)したテート・モダン。手法をざっくりとまとめると、最上階にガラスのボリュームを増築し、床スラブを撤去し大空間化している。タービンホールはトップライトから光を取り組み、パブリックな性質が付与され、巨大な展示空間としても利用されている。

タービンホール

このタービンホールの公的空間としての性質は、美術館が原則無料であることにも関連しているはず。そして、そうした空間の質が、(うまく言えないけど)展示される作品の自由さのようなものに繋がってくるように思った。

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都市デザインの観点からは、前回記事で触れたセント・ポール大聖堂からミレニアム・ブリッジ(設計 ノーマン・フォスター、2000)を経て、この美術館へと至る軸線がドラマチック。セント・ポールの都市軸を対岸に拡張した形であり、ミレニアム・ブリッジを渡り終える際にも、橋を折り返してセント・ポールが振り返って見えるようにデザインされている。ここでもセント・ポールを軸とした都市再生の細やかなテクニックが見て取れる。

 

テート・モダン

設計:ヘルツォーク&ド・ムーロン

竣工(改修):2000年

www.tate.org.uk

 

 

 


バタシー発電所 [2022(再開発完了)]

象徴的な4本の煙突

テムズ河沿いの巨大発電所を改修した大規模な都市再開発事業。テート・モダンの最寄りから水上バスで30分くらいの船旅で到着した。テート・モダンの成功を意識しつつ、地域の産業遺産を大規模な開発の核として活かしている。

店舗・レストラン・映画館・劇場・オフィス・アパートメント…様々な用途からなる複合施設。私が訪れたのはほんの一部のエリア

巨大開発の拠り所として、ピンク・フロイド「Animals」のジャケットにも使われた象徴的な発電所を用いたのは必然だとは思うけど、個人的にはやや大味な印象を受けた。ただ、40年以上の様々な紆余曲折を経て、荒廃が進んでいた発電所をここまでやり遂げたことには感銘を受けた。

既存の発電所の部分も残しつつ

バタシー発電所

設計(再開発マスタープラン):ウィルキンソン・エア(Wilkinson Eyre)ほか

再開発完了:2022年

batterseapowerstation.co.uk



 

 

王立取引所 [2001改修]

ロンドン金融街の象徴

金融の中心地「シティ・オブ・ロンドン」に建つ王立取引所は、19世紀の新古典主義の象徴的建築。正面に広場を設け、新古典主義らしいシンメトリーなファサードが取引所としての象徴性を高めている。大戦後に使われなくなっていたそうだが、高級商業施設として生まれ変わるために、中央の中庭に自然光を取り込むトップライトを新設された。2001年から、店舗や飲食店を伴う商業施設として活用されている。

フォートナム&メイソンも入っていた

王立取引所

設計(リノベーション): オーケット・スワンク(Aukett Swanke)

竣工(改修):2001年

theroyalexchange.co.uk



あらためて整理すると、これらは歴史的な建築物を活かし、新たな用途や機能へ更新したリノベーション・コンバージョンの好例である。外観は歴史的景観に配慮しつつ、内部は現代的な明るさと機能を持つ空間へと変えてゆく。その手法は様々だが、空間再生のための共通の工夫(=装置)として、トップライトやアトリウムが巧みに活用されている点が挙げられる。

特に大英博物館のグレート・コートに見られるような大面積のトップライトは、イギリスだけではないが、西欧・北欧を含め本場であるように感じた。ハイテク建築の旗手であるノーマン・フォスターは、トップライトにおいてガラスやスチールを巧みに扱い、ハイテク建築の技術的な側面を現代に継承し、息づかせているように感じられた。

日本でも1990年台に(特に商業施設で)大きなトップライトを伴うアトリウム建築が多く作られたが、その後は主流から離れてしまった印象がある。日本の夏場は結露対策も大変で、環境の違いが建築や空間の違いとして表れているといえるのだろう。

そして、これらのロンドンのリノベーションが世紀の変わり目に行われていることもあらためて注目したい。産業革命以降に生み出された発電所などが美術館や商業施設へと姿を変えてゆく。建築のあり方はその時代を象徴し、その体現として風景を生み出している。日本でもリノベーションが同時期から浸透してきたが、ロンドンのこれらの建築による影響は小さくないはずだ。

 

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