愛媛新聞「伊予弁」① 建築における「地域らしさ」

愛媛新聞にてコラム「伊予弁」掲載。


建築に関する実体験を交えながら、社会、文化、地域などのテーマについて執筆予定です。月1回のペースで、2021年11月まで。

 

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2021年6月16日付愛媛新聞(掲載許可番号:d20210617-04)

 

建築における「地域らしさ」

松山から車を走らせて、伊方町の観光交流施設「佐田岬はなはな」を訪れた。海への眺望が得られるようにレストランが高く持ち上げられた現代的で気持ちのいい建築だった。外壁には焼き杉が多用されていた。
焼き杉とは、杉板を焼いて表面を炭化させた板のこと。起源は定かではないが、佐田岬半島のみならず瀬戸内では多くの民家の外装材として用いられてきた。
焼き杉を用いたのは、そのような地域性を反映してのことだろう。私自身も、三津浜の空き店舗を改装した「三津浜チャレンジショップ」をはじめ、設計の中で焼き杉を使用してきた。地域の自然素材として風景になじむように思うし、黒くモダンな表情は現代的なデザインにも合う。
近年、地域固有の文化が見直される中で、地域特有の素材や意匠が多くの公的な建築に用いられている。自然環境や風土を生かして造られた建築は、景観整備や観光振興にもつながるだろう。地域の素材は地域のアイデンティティーを可視化する格好のツールである。
しかし、そこには安易に形式化し、地域の素材を用いればいい、といった思考停止に陥ってしまう危うさがある。例えば、どんな建物にでも瓦屋根を乗せればよいというものではない。
建築における「地域らしさ」とは何なのだろうか。その問いは、地方で建築設計をなりわいとするひとりとして、常に頭の片隅にある。