愛媛新聞「伊予弁」② 「みんな」の建築をつくるには

 

愛媛新聞のコラム「伊予弁」。第2回は建築のコンペについて。

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2021年7月14日付愛媛新聞(掲載許可番号:d20210714-03)

道後アートのやり方が最善とは思わないし、私自身、反省も多々ある。ただ、公共建築のつくられ方にはもっと建設的な議論があっていい。近年のプロポーザルを中心とした設計者選定の方法についても、積極的に良い建築・環境を作るというより、リスク回避といった消極的な手法として用いられているように思えてしまう。「案」を提示するコンペという方法は、議論を起こすためのきっかけとしても有用であるように思う。いわば「プロセスとしてのコンペ」という方法もあるだろう。

 

参考文献

みんなの建築コンペ論 (建築・都市レビュー叢書)

 

愛媛新聞「伊予弁」① 建築における「地域らしさ」

愛媛新聞にてコラム「伊予弁」掲載。


建築に関する実体験を交えながら、社会、文化、地域などのテーマについて執筆予定です。月1回のペースで、2021年11月まで。

 

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2021年6月16日付愛媛新聞(掲載許可番号:d20210617-04)

 

建築における「地域らしさ」

松山から車を走らせて、伊方町の観光交流施設「佐田岬はなはな」を訪れた。海への眺望が得られるようにレストランが高く持ち上げられた現代的で気持ちのいい建築だった。外壁には焼き杉が多用されていた。
焼き杉とは、杉板を焼いて表面を炭化させた板のこと。起源は定かではないが、佐田岬半島のみならず瀬戸内では多くの民家の外装材として用いられてきた。
焼き杉を用いたのは、そのような地域性を反映してのことだろう。私自身も、三津浜の空き店舗を改装した「三津浜チャレンジショップ」をはじめ、設計の中で焼き杉を使用してきた。地域の自然素材として風景になじむように思うし、黒くモダンな表情は現代的なデザインにも合う。
近年、地域固有の文化が見直される中で、地域特有の素材や意匠が多くの公的な建築に用いられている。自然環境や風土を生かして造られた建築は、景観整備や観光振興にもつながるだろう。地域の素材は地域のアイデンティティーを可視化する格好のツールである。
しかし、そこには安易に形式化し、地域の素材を用いればいい、といった思考停止に陥ってしまう危うさがある。例えば、どんな建物にでも瓦屋根を乗せればよいというものではない。
建築における「地域らしさ」とは何なのだろうか。その問いは、地方で建築設計をなりわいとするひとりとして、常に頭の片隅にある。

2020年の仕事を振り返る

新しい年を迎えた。昨年もおかげさまで様々な建築の実現に携わることができた。

そのひとつひとつに思い入れがあるが、(住宅を除いて)共通する特徴をワードとして挙げるならば、地域、コミュニティ、コミュニケーション。あるいは「つなぐ」「ひらく」といった動詞かもしれない。その代表的な内容を簡単に挙げておきたい。

 


ひみつジャナイ基地

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Photography: 宮畑周平 [瀬戸内編集デザイン研究所]

道後で継続的に取り組んでいるアートプロジェクトの一環として、日比野克彦さんや建築家の藤村龍至さんらを審査員に迎えた設計コンペの段階から準備してきた建築。コンペの最優秀賞を受賞したのは、愛知の松本樹さん(大学院生)。松本さんのデザインを実現すべく、コンペ後には実施設計・監理という形でバックアップを行った。
施工に携わったのは地元の伊予匠ノ会のメンバー。

 

dogoonsenart.com

麦宿 伝 Guest House Brew

空き家をリノベーションした、ブリュワリー&ゲストハウス。
全体計画から職人の手が必要な構造的な部分をこちらで担い、できることはクライアントご自身がDIYで行うといった進め方をした。

www.booking.com
 

 

髙本ビル(めしSAKE珈琲 髙本)

築60年を超える、角のアールのデザインが印象的なビルの全体的な改修、そしてその一角に構えるお店のインテリアデザインを行なった。髙本ビルの設計は故・高本鉄之介。

https://www.facebook.com/takamotobldg

 

 

掩体壕(保存修理設計)

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掩体壕とは、太平洋戦争末期に軍用機を守るために造られたコンクリートの構造物で、松山には3基が残る。そのうち1基について、保存修理・一般公開に向けた設計を行った。その文化財としての価値や現状を確認する状況調査を行ったのは2016年。

https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/heiwa/entaigou.html

 

 

のこぎり屋根のオフィス

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Photography: 宮畑周平 [瀬戸内編集デザイン研究所]

思えば、弊社事務所の建替えも行った。新たな場で思考し実践を行う一年だった。そして、これら全ての建築はコロナ禍の中に完成したものである。それぞれに苦慮の中で軌道修正(軌道変更?)も行なわれたことを付して記憶しておきたい。

のこぎり屋根のオフィス

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Photography: 宮畑周平 [瀬戸内編集デザイン研究所]

オフィスが新しくなった。

内覧の機会を、と複数の方からお申し出いただいたこともあり、内覧会を設えたところ、仕事やプライベートやさまざまなところでお世話になっている方々、近隣の方々など多くの方々にお越しいただいた。(お越しいただきました皆様、またお心遣いの品などをお贈りいただいた皆様、ありがとうございました)

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夜はオフィスで知人友人と軽い飲み会に。普段は働く場所として使っているところがいつもと違う形で開くことができたのは、機能よりも先に場所がある、ということを再認識できて良かった。また何かユニークな使い方も模索したい。

まちなか大学トークセミナーvol.3「小さな場の開き方」

10月27日(日)、愛媛大学地域共創研究センターが主催する、まちなか大学トークセミナーvol.3「小さな場の開き方」に聞き手として登壇。

山之内圭太さん、木和田伝さんをゲストに、愛媛大学山口信夫先生とともに話を聞く役回り。今回のトーク、企画からお手伝いしました。

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山之内さんは東京都内のブリュワリーの醸造長として数々の受賞歴を持ち、今年Uターン。国内外ブランドのウエアなどを販売してきた千舟町のアパレルショップ「DD4D」内のスペースにクラフトビール醸造所をオープン。

木和田さんは広島在住。三津浜の古民家を改修し、クラフトビール醸造所と民泊の開業を目指す店舗兼住宅をこれからオープンさせようとしている。

二人に共通するのは「クラフトビール」作りに携わる点だが、二人のユニークな点は、ただクラフトビールを作るだけでもなければ、ただ古民家ゲストハウスを開業するだけでもなく、それらのプログラム(用途)の共存によって、小さくても新たな場を生み出している(生み出そうとしている)ところにある。

例えばDD4Dではアパレルショップの奥にブリュワリーとカウンターテーブルが共存し、それぞれ異なる客層を取り込みつつ、両者をビジネスとしても成立させている。街にとっても魅力的な場になっていて、そこが面白い。

「聞き手」として参加した私は、建築や場づくりに携わる立場として、そのテクニカルな話ができるといいのかなーと思っていたけど、お二人の生い立ちから今日に至るまでの話を聞きながら思ったのは、その技術論的な話ではなく、二人のベースに、そのビール作りや、地域や、あるいは家族に対する「思い」があるということ。要するに、二人ともとっても熱かった。

そして、二人が同業者でありながら、既に深い協力関係を築いているということも興味深く捉えられた。二人にお声掛けした際にも、同業者の登壇であることを確認したが心配は無用で、「市場が小さいからこそ協力も大事」とのこと。

さらに、クラフトビールの魅力についてもあらためて気付かされたように思う。「ビールはワインやウイスキーと異なり、何度でも挑戦できる」「作ったものを自分の目の前で飲んでもらって評価される」といったことを山之内さんは話していたが、ストリート感の漂う二人には、さらに言えばお客さんや関わる人との即興の対話、いわばライブのような感覚を楽しんでいるような気がして、そこにクラフトビールが合うんだろうなと。単純にアルコールがあれば場の空気も異なるし、ビールは持ち運んで別のイベントにも持っていけるし、クラフトビールの場を繋ぐツールというか、メディアのような役割というか、そういう魅力があるなーと。

ともあれ、大学の関わる事業の一環でありながら「古民家でビールを飲んでトーク」という、アカデミックとストリートが融合したような場を作れたのは良かった。三津のこの建物もすごくいい場になりそう!

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ケミビル705 知らなくても楽しい、知ったらもっと楽しい『愛媛の建築』の世界

松山・ケミビルで不定期に開催されているイベント「知らなくても楽しい、知ったらもっと楽しい○○の世界」。

10月11日の第4回目となる同イベントのテーマを『愛媛の建築』としてお招きいただき、工務店の設計者・宮内健志さん、建築系編集者・宮畑周平さんとともに、愛媛の建築についていろいろ話してきました。

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私は戦後愛媛の建築史を概観し、丹下健三愛媛県民館や今治市庁舎に代表される、建築家による庁舎や公共建築の時代(1950-70年代)、住友に起源をもち愛媛にゆかりのある日建設計をはじめとする組織設計事務所による公共建築整備の時代(1980-90年代)と20世紀の流れをざっくりと整理。

それから21世紀に入り、ロープウェイ街や道後、花園町といった景観整備が行われるようになり、それとあわせて屋台やキッチンカーなどによるマイクロパブリックスペースの出現や、あるいは道後オンセナートなど、公共空間の再整備とその活用が行われるようになったということを概説。
結果的に公共建築・公共空間の流れを確認することとなったが、公共への投資の方向の変化に伴い、各時代を代表する建築のあり方や評価のされかたが変わってきたこと、とりわけ近年には建築単体からから公共空間といった面的な整備へとシフトしていることなどを実際の建築作品とともに整理。


宮内さんは建築への偏愛を語るとともに、それらを分類して解説。松村正恒の松山での独立時代のアノニマスな作品を探す、いわば「隠れた松村建築」発掘の愉しみや、松山のトマソンについて。建築のもつ幅の広さや魅力が伝わる内容だった。
宮畑さんは自身が住み暮らす弓削島の民家や、古民家をリノベーションした自邸兼店舗を紐解き、地域に根ざしたデザインについての語り。愛媛と一口にいっても地域ごとの多様性があり、その個性にそれぞれ魅力がある。

その後の会場を交えた質疑では地域の材料のあり方についても触れられた。地域材の使用についても、ただ使えば良いという短絡的なものではないなということを理解できたのは大きな収穫だった。瀬戸内で多くみられる焼杉についても掘り下げられたが、またじっくり考えてみたい素材である。

 

それにしても、会場となったケミビルの展開がおもしろい。様々な場や分野をつなぐ場所として育ちつつあるなー。

 

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トークの内容はこちらから。

ehime-architecture.themedia.jp

えひめの名建築とは何か?

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愛媛県美術館 会議室にて行われた「えひめ名建築発掘発信事業」の第1回委員会に、矢野青山建築設計事務所の矢野さんとともにアドバイザーとして出席。

 

建築の地域資源化や観光まで視野に入れた、愛媛県内の近現代建築の発掘とリスト化を主な目的にしている本事業。
今回はこれまでに市町や建築士会にヒアリングしてかき集めた200件超の戦後の愛媛の建築一覧を基に、今後の方針などについて議論を行った。


地域の建築をリスト化する。このような際には著名な「建築家」の「作品」を挙げてゆく方法がある。ただ、これはある種の偏った見方だと思うし、そのようなやり方ではリストからこぼれてしまうような、しかしキラリと光る愛媛ならではの地域性や物語性を有するような建築をいかに取り上げるか?その視点や方法とは?


ーー私自身はそんなことを考えていたが、どの委員の先生方も同様に既存のやり方で良いとは思っておらず、活発な意見交換がなされた。もちろん、建築家の作品を取り上げるのは手法のひとつであるし、その点をまとめることも重要であるのだが、地域発であるからには、中央的な建築メディア視点を盲信するのは危険であろう。


ある委員の先生の発言にもあったが、愛媛の近現代建築史はあらためて洗い直して整理すべきだろう。そうした通史的な観点から見えてくる対象やテーマがあるように思う。